「Sが入院したって!病院行こう!」


と、今日お昼過ぎに現在T研助手のWちゃん(女王様)から電話がありました。


「えーーー!何で!あの殺しても死なないような奴が!?」
「わかんないけど、とりあえず30分後○○駅の改札前で!!」


S君とは私の大学の同級生です。私の分野は非常に人数が少なく、同級生なんて今所属している研究室、隣のT研、あとちょっと毛色の違うS研の3つ合わせて13人という体たらくでした。その数少ない同級生の、さらに数少ない男の同級生(3人)の一人が彼でした。


とにかく何かおかしな人間で、住んでいる家が「6畳2間、キッチン、トイレ、風呂付 25000円」というどこの不動産屋で見つけてきたの?という物件で、
・まず山と山の間の窪地にあるため、行く時には山を一つ越えなければならない。
・お向かいはラブホテル、斜め向かいはゴミ処理施設、裏は一面お墓と森。
・一番近いコンビニまでバイクで15分。
・水道から茶色い水しか出てこない。


というどうしようもなさナンバーワンの家でして、水道が使えないので、お風呂も結局銭湯に行くしかなく、そのくせ彼は私など足元にも及ばないほどのダントツ貧乏(借金有)だったので風呂に週イチしか入っておりませんでした。


正直私は彼が嫌いだったのですが、たった13人しかいない同級生の内の一人。しかも出席番号の都合で席はいつも隣。そうやって4年間過ごせば情も湧くものです。感覚としては兄弟やいとこに近かったと思います。嫌いだけど、悪口とか言われてると腹が立つ。みたいな感じでしょうか。


で、正直かつ本音の付き合いをしていたので、彼からは独特のスメルが漂う事が多く(特に夏場)そんな時は「あたしの風上に立たないで(くさい)」と、大変正直に申告していました。


学校に居た頃はよくご飯食べたり、先輩の家で雑魚寝したり、一緒に銭湯行ったりと仲良くしていました。お陰で色々なことにも巻き込まれましたが、それを話し出すと夜が明けるのでまた別の機会に。


でも卒業して、彼が単身インドに行った後音信普通になり、「無事帰国したらしい」とだけ聞いていたのですが、元々お互い淡白にも程がありましたので、連絡しないまま時は流れていきました。そんな折のこの仰天ニュース。とりあえずバナナとリンゴを買って某病院に二人で行ってきました。


さすがに剛速球サディストのWちゃんも心配して、「病気かな、事故でも起こしたのかな」と、おろおろしっぱなしでした。


病院に着き、大部屋の真中に、見慣れた小汚いおっさんが本を読んでました。何か元気そうです。


「あ、Wちゃん、ウメ、わざわざ来てくれてありがとうなー」
「これお土産。つうか一体どしたの、入院なんて」
「大丈夫なの?ほんとに何があったのよ、事故?」



すると、S君はちょっと照れて言いました。






「巨大ムカデに背中刺されて死にかけた」





「・・・・・・」




「凄かったんだって!寝てたら頭の方からシュルシュルって音がしてさ、オレ、「あー蛇がまた入ってきたなー」と思ってじっとしてたんだよ。そしたら背中にビリビリって痛みが走って、燃えるように痛えんだよ。で、あんまりの痛さにのたうちまわりながら電気つけたら親指くらいの太さで30センチ以上あるムカデが布団の上にいてさ。いやービックリしたよ。」



あ、Wちゃん(虫が死ぬほどキライ)が逃げた。



「でなー、とりあえず刺されたところ冷やして寝たんだけど、あんまりの痛さに寝れないし、だんだん意識が朦朧としてくるしで、救急車呼んだんだよ。そしたら背中が二人羽織してんじゃないのか?ってくらい腫上がってて。その後3日くらい意識不明になってさ。死ぬかと思ったよ」







もうお前引っ越せ。(でも生きてて良かった)